「不妊退職」と「妊活退職」。言葉の違いから感じること。

 週刊東洋経済 2018年6月9日号の特集は『共働きサバイバル』。

 

 この特集の中に、「妊活退職」なる言葉が。

 

 内容としては、「不妊退職」と重なる部分が多く、大きな違いはないように感じました。

 

 ですが、”妊活”という言葉と、”不妊”という言葉から受ける印象には、若干の、というか、かなりの違いがあるようにも思われます。

 

 「妊活退職」にしろ、「不妊退職」にしろ、子どもが欲しいと願って医療機関を受診する中で、通院と仕事のはざまで悩み、退職に至る、というプロセスは同じです。

 

 しかし、その苦しい状況を表す言葉の違いにより、受け手の印象が変わってくるのではないかと思うのです。

 

 週刊東洋経済の「妊活退職も社会問題に 進まない職場の理解」という項目では、その後の妊娠中の母体へのリスクについても言及しており、妊活から妊娠、出産して子育てへという流れを想定しての言葉であることがうかがわれます。

 不妊治療を受ける側から子育てを行う側への移行をメインにイメージしている、私はそんな印象を受けました。

 

 それに対して、「不妊退職」には、どこか、子どもが授かるかどうかわからない不安定さの中で取り組んでいること、不妊治療のために退職したが、子どもを授からないこともあること。そんな現実をも含むような、不妊治療のその後の多用な道も暗示するような印象を、私は受けています。

 

 これは、あくまでも私の個人的な印象ですので、そんな風には思わないけれど、というご意見も当然、あると思います。内容としては大きく変わらないとなると、なおさら...わざわざ違いを感じる、と言わなくても...とも思うのですが、企業の方々がどう受け取るか、どう感じるか、実態をどのように理解するか、という点においては、とても重要なことではないかと思うのです。

 

 ある言葉から人がどんな印象を受けるか、それによって、どのような考えを持ち、どのような行動をするか。それは、企業にとっても重要な動機となります。

 

 支援を考える上で、不妊治療から子育て支援へと移行することを前提に考えることも大切ですが、一方で、不妊治療によっても子どもを授からない場合もあり、子育て支援への移行がない場合もあるということを考えておくことで、より柔軟な支援体制を組むように方向付けることが可能になるのではないかと考えます。

 

 社員(従業員)が仕事をしていく上で、雇用契約を結んでいる企業は何を考えておくべきか。

 

 リプロダクティブ・ヘルス・サポートでは、社員の不妊治療支援を掲げていますが、介護と仕事の両立も大切になってきていますし、社員(従業員)の疾病治療と仕事の両立も大切です。

 がん治療=退職ではない、ということも、少しずつ浸透してきています。

 

 仕事と社員(従業員)が抱えるプライベートの課題とは、同一人物の身に起こることである以上、切っても切れない関係にあります。それはまた、企業にとっても、社員(従業員)のプライベートの課題は、内容にかかわらず全て個人的な事情である、として済ませるには、あまりにも相互依存が進んでいて、切り離しは困難になりつつあります。

 人手不足が叫ばれる中、社員(従業員)の様々な事情を勘案しないままでは、今後の人材確保にも影響する可能性もあり、企業にとっても難しい局面になっていると言えるかもしれません。

 

 ちょっと、話が大きくなってしまいましたが、子どもが欲しいと思っている社員(従業員)のことを理解し、いかに企業として社員(従業員)の支援と人材の確保とを進めていくか、ということを考えたとき、些細な違いかもしれませんが、言葉の違いとそこから受ける印象も大切にした、ある種の繊細な感覚が、後々、大きく響いてくるかもしれません。